涙が出た話 ー 一生懸命に正解や正義を押しつける人々 ー

涙が出た話 ー 一生懸命に正解や正義を押しつける人々 ー

とある有名飲食店での話を2つします。

1つ目は、カウンター6席と4人掛けのテーブルが3つほどの小規模ながら元気いっぱいの創業100年以上続く明石焼きの老舗です。

各種飲み物は多数ありますがもちろん、食事メニューは自慢の明石焼きのみ。

アクシデントが起きて、食事を楽しめなかったときの話です。

現代社会において、「私は「普通に」ちゃんとしているから大丈夫」と一生懸命に、正解や正義の押しつけをしているかもしれない人々へ、一石を投じます。

誰かの想定内通りなら「良し」とされる

時々やってくる無性に何かを食べたい衝動が一致し、家族と私は明石焼きの名店へ足を運びました。

入店すると、カウンターの奥で焼き続ける元気な店主の声に導かれテーブル席へ着席。

その直後に店員が水と付け汁を運んで来るという芸術のようなシステマティックな動線。 

店主「人数分の明石焼き二枚焼きますね〜」

私「はーい、お願いしますー」

出来たてを美味しく頂いていると、先ほどまでは私たちしかお客がいなかった店内に次々と来客があり、あっという間に半分以上の席が埋まりました。

着席すると水が運ばれてきては明石焼きが人数分用意される、円滑で「想定内」の時間が流れていました。 

アクシデント勃発

その時です。

最年長と思われる店員が何かの拍子に、机に置いたばかりの水が入ったコップを倒してしまいました。

水は着席していたお客さんの服にかかりました。

幸いそのお客さんは、スポーツ帰りと推測され、上下お揃いのジャージを着ていた若い男性でした。

最近のスポーツウェアは性能が良いので速乾性があるから「水くらいならすぐに乾くだろう」と、私は他人のことながらホッとしていました。

彼も、「ほとんどかかってないです。大丈夫です」と慌てている店員に笑顔を向けています。

見た目年齢が60ー70代の店員と優しくて爽やかな好青年とのやり取りは、まるで祖母と孫のやり取りにようにも見えました。

店員は何度も謝りながら「大丈夫ですか?」と声をかけました。

その度に彼は、「本当に(おばあちゃん)もう大丈夫ですから」と答えました。

同席していた友人達も「(もぅおばあちゃんって心配症だなぁ〜)」と言わんばかりに笑ってもいました。

微笑ましい一面で、事無きを得ました。

さらに盛り上げる正義族

そのアクシデントに数秒遅れて反応した別の店員達が、タオルやモップを持って駆け寄ります。

狭い店内なので、走らないで欲しいなと思ったほどに勢いよく。

祖母と孫の温かい会話で、収束した事態が振り出しに戻されました。

「大丈夫ですかぁぁ?!」を駆け寄った2人の店員から合計10回ほど聞きました。

「え?!!『大丈夫だ』って話が終ったよ?!」

さらに明石焼きを焼いていた店主からも「大丈夫ですかぁぁ?!!」と大きな声で、5回ほど声かけがありました。

さらに、大きな声で「本当にに申し訳ございません!! 大丈夫ですか?大丈夫ですか?」 と続きました。

まるで、「これが正義だ!」と言わんばかりに謝罪が続きます。

しかし同事に、それが間接的な空気の圧力となっていました。

ただの水ごときで何をそんなに騒ぐのだろうか… 

間接的な圧力

ちょうど正面に座っていた私は、3人の同僚から間接的な圧力を受け、水をこぼした店員の表情がみるみる強ばっていくのが見えました。

3人が繰り広げる大きな声で客に届ける「大丈夫ですかぁ〜?!」「申し訳ございません」は、一見客のことを大事にしているプロ根性と思われるかもしれませんが、それに加え「心配や不安」が乗っかっているようにも感じました。

さらに、「なにやってんだよ!!」という怒りやバカにするニュアンスも垣間見えた気がします。

想定外になった途端、さっきまでの人々とはまるで別人のようになっていました。間接的な空気圧力を使って、正義を押しつけているようにも感じます。

贔屓目なしに事実だけを説明すると、本当に事態は収束していました。

そして、たかが「水」です。自然に乾いてなくなるものです。

爆笑で終わる想定外への対処法

私がカリフォルニアに住んでいた時のひどい話です。

お気に入りのTシャツで参加したBBQ会場にて。

張り紙が見えなかったのか、故障のため使用禁止となっていたケチャップマシーンを謝って使用してしまった方がいました。

その結果、ケチャップが爆発のように散乱。

ちょうど近くにいた私の服にも飛んできました。

「あああーお気に入りの白色のTシャツが!!」

ただその張本人を見ると、顔面全体がケチャップだらけとなっており、無言で立ち尽くしていました。

そして、ようやく気付いたようで、「故障中、使用禁止」と書かれた紙を手に取って見つめていました。

どう考えても、私のTシャツよりも悲慘な状況です。

それを見ていた周囲の人々とともに、大爆笑で終わりました。

しかも私と2人並んで写真も撮りました。

並んでいる時に、彼の顔面からポタポタとケチャップがこぼれて私のTシャツはもっと汚れました。

想定外になった途端

話は日本に戻ります。

飲食店での些細な出来事ではありますが、実はこう言った場面を日本へ帰国後、とても多く見かけていた気がします。

みんながみんな「一生懸命過ぎて余裕がない状態」。

想定外になった途端、感情と言動が乱れる。

今の現代思想を表しているのではないでしょうか。

「自分の想定外」に、余裕を持って対応出来ない、冷静に対処が出来ない、そんな一生懸命の空回りが蔓延しているように思えてしょうがありません。

余裕のなさの基盤に「正解と正義の押しつけ」

常勤であろうが、非常勤だろうが「店員」という職業の方の中に、「客に水をかけたくて、かける人」は皆無でしょう。

 誰かを困らそうとわざとやっているわけではありません。 

しかし明らかにそこには、

水をこぼす=悪

悪を成敗する=正解や正義

という方程式が成り立っていました。

アクシデントを起こした店員が食器を炊事場に運んでいる姿を後ろから見ました。

おそらく右の股関節に痛みか不具合があるのでしょう。

股関節の屈曲が出来ないのか回旋させて下肢を動かすような「跛行」を認めていました。 

見た目に分かる跛行をもつ高齢者であれば、立位時のバランスが不安定になってもおかしくありません。

つまり、 水が入ったコップをテーブルに置く労作中に本人が意図しないことが起きても、なんら不思議ではないのです。 

3人が続ける無言の空気圧力の時間がしばらく続きました。

不思議ですが、そういった雰囲気での食事は、美味しく感じないものなんですね。

水こぼしただけ=罰、だからいじめる

早く店を後にしたい私たちは、そそくさと食事を終わらせ、レジに向かいました。

ふと気になって先ほどの店員を見ると、歯を駆使縛り身体を一生懸命に動かして働いておられました。

ただ、まだ残りの店員達からの総スカンは続いています。

「(どうせまたミスすんなよ)」と言わんばかりの視線を浴びています。

万が一、その水をこぼす行為が通算1000回目だったとしましょう。

なら、まだ水を運ぶ作業をやらせている店主にも問題があります。

店がチームだとしたら、チームでの試合で負けたなら、監督も含め全員で対処法を話合う必要がありますよね。

監督の指示通りちゃんとやってるのにもし試合に負けたら、監督のせいですよね。選手だけが罰を受けるなんて不公平です。

彼らにしたら、先ほどの方程式を信じて止まないのでしょう。

そして、それが正義や正解だから、そうじゃない人を許さない/まるで排除するような態度。

圧力や空気を使った攻撃、これが絶対に許してはいけないいじめの始まりです。

悲しくて涙が出た

その状況を孤独に耐え黙々と働く店員の姿に涙が出ました。

「なんで、みんな笑顔で協力しあえないんだろう・・・」

「日本はPunishment(罰、処罰)を与える文化だもんね、みんなそれが怖くて怒られないように生きてるんでしょ?」と世界の文化を研究している知人に聞かれたことを思い出します。

「にほんってスゴいよねー、日本人なんてさぁ、みんな良い人ばかりなのにさぁ、なんでささいなことで罰を与えるんだろうね。どんな歴史や文化があるんだろう?」

と何の悪気もなく、あくまで文化的興味を追求をする純粋な彼の目を思い出します。 

「彼が調査研究したいなら、日本に来た時にこういった場面を多く見せよう」

これが唯一のポジティブな側面でした。

まとめ

まず最初に、水は液体として存在しますが、気化すると無くなります。

2個の水素原子(H)と1個の酸素原子(O)から構成される水の分子構造が、温度が上昇することで壊れて気化するのです。

だから、絶対に衣類に付いたくらいで大事にはなりません。

しかも、ジャージの素材は丈夫です。

第一ジャージを来た爽やかな彼が「大丈夫」と言ったら、大丈夫なんです。

日本人は細かいことにも気がつき、気配りや配慮が出来る世界に誇れる人種だと思っています。

その素晴らしい能力の使い道を、今一度考えたいなと感じた出来事でした。

「正解や正義の押しつけ」に全力出していませんか?

その時間があったら、他に目を向けてみませんか?

世界には、日本人の勤勉さや能力を必要としている環境がたくさんあります。

このコラムを良い思ったらハートをクリック!

+12

この記事を書いたドクター

画像
福島 八枝子
明るく好奇心旺盛な整形外科専門医Dr.ヤエコフがお届けします。スポーツ医学の本場アメリカで研究したPM&R(Physical Medicine& Rehabilitation)を扱う最新医学情報をはじめ、海外や日本での生活におけるおもしろエピソード等をご紹介

資格・経歴