嫌いにならないための努力

嫌いにならないための努力

いつになったら解除されるのかもわからない緊急事態宣言に、あてのない自粛生活。どうやら、イライラが募り家庭内で口論が増えたり、友人や同僚との人間関係がギスギスしている話を耳にするようになりました。

最も打撃を受けている飲食店業界では、販売価格を上げたり、料理の量を減らしたり、様々な試行錯誤が繰り広げられています。

一方で、自粛生活のおかげで「人間関係が良くなった」という声もあります。

この違いは一体何でしょうか?

ラーメン屋さんでの出来事

飲食店経営側としては一度に可能な限り、大人数が入店する方が嬉しいでしょうが、お客側からしたらこんなに広々と、飲食ができるのは初めての経験かもしれません。

私がニンニク味にこだわりを持つラーメン屋さんに一人で行った時の事です。

普段は店の外で列に並ばないといけない人気店なのですが、並ばずに入店できました。そのお店は5人掛けテーブルに2名しか着席できないよう人数が制限され、全ての窓は開放。なのに、空気清浄機はフル稼働。各テーブルにアルコールスプレーが装備され、まさに万全の体制です。

久々の来店でテンションは上がっていました。しかし、運ばれてきたラーメンを見てショックを受けました。明らかに、具であるネギとニンニクの量が通常時の半分以下です。「え?!!めっちゃ少ない」

さらに値段表を見ると数字が書き換えられ200円アップしています。

「くぅ、飲食店が相当辛いのもわかるけど…これじゃ…(もう来ないかも)」

そんな気持ちになった時に、 隣のテーブルでお一人で食事を取られていたの60代前後の男性の方(以下、おっちゃん)が店員に声をかけました。

おっちゃん 「お兄ちゃん、めっちゃねぎ少なくなってるな。もし無料やったら、もうちょっとだけ足してくれる?」。

若い店員は「店長に確認してきます」と一旦立ち去り、小皿にネギのトッピングを持ってすぐに帰ってきました。

「まぢか?言えばいけるんか?」私も思い切って店員に声をかけようかと思いましたが、なんとなく気がひけて、黙って食べ続けていました。

するとまたおっちゃんが店員に声をかけます。「ごめん何回も。もし無料やったらでええねんけど、にんにくも足してくれへん?これでは、お店本来のにんにくラーメンの良さがでーへんわ」

すると、なんなく、にんにくが追加されました。

「まぢか?!両方?!」私は、2度ほどおっちゃんと店員さんの顔を見ましたが、それでも声をかけることをしませんでした。

別テーブルからツッコミが入る 

子ども連れ 「それにしても、このネギとにんにくの量では、もうこの店には来ないわね私たち」

「それにせいても、あのおじさん、(無料でトッピングもらって)ズルいなぁ、厚かましいなぁ」

たまたま目があった私にも相槌を求めるように会話がなされていました。正直私も、同じ気持ちでした。「残念だけど、もう来ないかも」

その時、会計をするためおっちゃんはレジに向かい定員と話し始めました。

「さっきはごめんな何回も持ってこさせて。私はこの店のラーメンの大ファンやから、嫌いになりたくなかってん」

「麺やスープはいつも通りやけど、トッピングがめっちゃ減ってると、なんか味が物足りないもんやな」

「だけど、足してくれたから、いつもの好きな味に戻ったからよかった」

「美味しかった、また来るわ」

「対応してくれてありがとう」

といって、爽やかに帰っていかれました。

なぜ「嫌いにならないための努力」をしない?

その時、私は間逆の結果となっている事態に気がつきました。

不平不満を思いながら食事をした人は「嫌いになった」「もう、来ない」という結果。

「もし可能なら,,,」と自分が満足できる工夫をしながら食事を取った人は、「嫌いにならなかった」「美味しかった、また来るわ」

このおっちゃんの発言と笑顔に、全てが込められていました。

この方はズルいのでもなく、厚かましいのでもなく、「嫌いにならないための努力」つまり歩み寄りをされたということです。

全ての発言の冒頭に「もし可能なら,,,」「もしよろしければ,,,」という断りさえ入れておけば、丁寧な尋ね方になります。そういった尋ね方くらい、誰にだってできたはずです。しかし、私はまさに、「ズルいなぁ、厚かましいなぁ」と言われるのを恐れて行動しなかったのです。

「めっちゃ、具が少ない!」そう思っていることを告げずに、静かにこの店を一方的に嫌いになって、もう二度とこの店には足を運ばないつもりでした。

「気がひける」や「悪いかも?」を言い訳にしたのか、空気を無駄に読んだのか。果たしてその空気はあっていたのか、分からないまま一方だけで判断してしまう従来型の対話では、今のご時世に適していないのだと思いました。

こんな時だからこそ、お互いが丁寧に歩み寄り、少ない材料の中でどのように分け合えばお互いが満足できるかを「話し合う力」つまり、努力が必要なんだと思います。 

聞いてみた結果もし、お店側から「値段をあげて、ネギとにんにくの量を減らす」と決定されたのであれば、その時になって、お客側は今後の来店を考えたら良いのです。

「どんな努力をしてる?」

自分に不甲斐なさを感じたこの経験を機に私は、イライラが募り家庭内で口論が増えたり、友人や同僚との人間関係がギスギスしていると話す人たちに、こう質問するようになりました。

「(良好な人間関係を維持するために)どんな努力してる?」

そうすると誰もが目を丸くします。「嫌いにならないための努力」なんて考えたことなかったといいます。

これまでは物、人、時間、お金、仕事目に見える物質全てが溢れていました。だから、「あって当たり前」だったんです。

それが無くなった今、「なぜ、ないんだ?!」と「無い」ことに着目するのではなく、「今あるもので、どうする?」「まだあってよかったね」と肯定的なものの捉え方が、どんな時でも楽しく過ごすコツではないでしょうか。

人間関係においても「あの人は〇〇してくれない」「あの人は空気を読む力がない」と「無い」ことに目が向きがちです。

「無い」はない状態を否定し、「ある」はある状態を肯定しています。

「「ある」を探す「嫌いにならないための努力」」はどんな時代においても、1日1日を穏やかに過ごすトッピングではないでしょうか?

誰かを嫌いになる1日よりも、好きになる1日で。

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この記事を書いたドクター

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福島 八枝子
明るく好奇心旺盛な整形外科専門医Dr.ヤエコフがお届けします。スポーツ医学の本場アメリカで研究したPM&R(Physical Medicine& Rehabilitation)を扱う最新医学情報をはじめ、海外や日本での生活におけるおもしろエピソード等をご紹介

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