Dr.ヤエコフ風、脳の使い方

Dr.ヤエコフ風、脳の使い方

20代は学生アスリート時代に蓄積した体力・気力を総動員し過労とも言える「手術外科医としての修行」の時期を乗り越えました。忍耐力も集中力も常にトップスピードを維持し、朝はAM5時から、夜はAM1時頃まで働き、血液データもレントゲン結果も患者さんの顔を見たら思い出せました。「この人は、CRPなんぼやった。」とか「2日前のレントゲンで角度が何度か変化した人や。」など、患者さんの顔を見たら各種データがまるでGoogleグラスの様に上がってきていたのです。

今では大金積まれても絶対にもうしたくないですが、あの頃は最高に楽しく厳しい良い修行の思い出です。あの年齢でのBestだったと自負します。

今の私があるのはこの怒濤の経験だと感謝しています。

ところでみなさんは、10代/20代の記憶力を維持出来ていますか?

「ギクッ」としたあなた。大丈夫です。

私は現在40代ですが、正直に言います。

知識や情報を頭の中に入れても、留まらずに明らかにすぅーっと出て行く自覚があります。

しかし実は全然困らないのです。というよりはむしろ、この状態を目指してきました。

え?!負け犬の遠吠え?w

いや、本当にこの状態が理想なんです。

ここから自分なりの解釈を説明して参ります。

「あなたの脳を占拠させても良いくらいに人生において本当に覚えておかないといけないことって何ですか?」

先ほどに上げた「修行時代」にも、記憶事項が多くならないよう、記憶と思考は半分ずつで脳を使いたいと思っていましたが、ぱぱっと記憶してしまった方が早いので自らの頭を記憶ツールとして使ってしまっていました。

当時はそれでも良かったのです。結局、患者データという単純な記憶を披露する場面が多かったので。

それでもイメージではありますが、最大でも脳の役割60%くらいまでしか記憶ツールとして使わないように出来ていたと思います。ただ40%しか思考に使えないので、冷静に考えられる機会が少なかったかもしれない、と今振り返ると思います。

例えば、「ここで不機嫌さを出したって絶対にしょうもないし何の意味もなさない状況。」と冷静に考えたら誰でも分かるようなものの、やってしまったとか。ちょっと工夫をすればもっと円満に解決するのに、従来の方法に頼ってしまったり。。。とかです。

恐らくですが、人間40%の思考力では足りないのだと思います。もちろん職種にもよりますが、頑張って記憶しないといけないのでは足りないのです。記憶すべき事項は繰り返し練習し、頭で考えなくても勝手に身体が動くくらいまで叩き込むべきですし、そうでないことはノートに記して持ち歩き、「何処に書いてあったか」という場所だけの最小限の記憶に留めるのが良いのではないかと思います。

人生において、そんなに頭をパンパンにするまで記憶しないといけないことって本当にありますか?振り返ると、そうでもなかったなと私は笑っています。あんなに必死になって少ないキャパで思考していたのが初々しいですね。

徹底的に記憶しない生活スタイルを身に付ける

そこで30歳代前半は徹底的に記憶しない生活スタイルを身につけるよう心掛けました。もちろん、仕事は今まで以上に責任が重くのし掛かり、こなさねばならない量も増えていました。それに伴いもちろん、記憶しないといけない事項が増えていましたが、そこをあえて自分の脳を使って記憶しないように努力しました。目指すは、記憶10−20%に対し思考は80−90%使えているイメージでした。

具体的には、スタッフと話すときは必ずA4の大きな白い紙を用意し、話ながら要点だけをメモします。会話のボリュームを100とすると、私がしないといけない事はたいてい2-3件です。しかし、その2-3件を効率よく実施したり、さらにもしそれが再発すべきでない問題であれば、再発予防を各々に1-2個ずつ追加します。

つまり何をしているかというと、

思考力を使って:会話→要約→To Do list作成→行動手順を作成

記憶はしない:作成した行動手順はメモに記されている

行動あるのみ:自分で作成した手順に従うのみ(この間、感情、記憶、思考は使用していない)

みなさん、思い浮かぶと思いますが、スポーツの試合をしている時って無心ですよね?試合開始前に例えどんなに腹が立ったり悲しい事があって悩んでいても、試合が終われば、「あれ?私って何で悩んでいたんだっけ?!」となり、爽快な気分になっています。これはスポーツがもたらす恩恵の1つですよね。これと同じ現象を仕事中に楽しんでいたというわけです。

頭の使い方は、記憶と思考だけじゃない!

記憶力と思考力の2項目に着目して仕事を楽しめるようになってきた30代中頃。淡々と仕事をこなし、スタッフがミスをしても感情的になったりはせずに、そういう時こそ行動手順リストを作る過程の「思考力モード」に単に戻れば良いだけです。「はい、ミスですね。どうやって一緒に解決していこう?再発予防もいる?」と。一緒に思考をして、一緒に行動手順を立てるだけです。いったんメモが出来上がればお互いにあとは「DO it!」やるのみです。

医者として技を極め、人間としてそれなりに味が出てきたのもあって、いつの間にか患者さんや医療スタッフから高い信頼を得られるようになっていたのです。一緒にいて心地良いので老若男女から「あの先生、好きやわぁ。」そんな愛されキャラにもなっていきます。

ちょうどこの頃に、ふと気付くことがありました。

「仕事が出来る医療者なんて五万といるのに、その中でもなぜ私は人に好かれるのだろう?」

そこで見えてきたのは、頭の使い方は記憶力と思考力だけじゃなかったことです。20代の時に目指していた、「記憶10−20%に対し思考は80−90%使えているイメージ」は達成されているどころか、スマホやパソコンの利用により記憶として使うスペースは10%未満になっていました。それじゃあ、90%を思考力に使ってるかと言ったらそうではなかったのです。45%ずつくらいで、思考と共に使っているさらに新しいジャンルの存在を認識しました。

この新しいジャンルは恐らく昔から使っていたけど私自身が明らかに存在を認識出来ていなかっただけなんだと思います。

その新しいジャンルとは、心=感情です。

自分の記憶と思考を使う割合を極限まで落とす、可能なら止めると、心=感情がActivate 容易に動き出すことに気付いたのです。知らず知らずに診察中や業務中、私が関わる全ての人に、時間は数秒か数分かもしれません。どんなに忙しくて頭がいっぱいでも、意図的に記憶と思考を止めるようにしました。すると勝手に感情を使い出すので、相手の感情が心地よいと感じるようです。それはまるで秘伝のスパイスを入れてお料理をワンラクン美味しくするように、全ての人や事象が好転反応を示すのです。

必要なのは心を使った愛情のこもった処方箋

元々、理系の超・論理脳かつ現実派。

解決策を求めない「共感しあう」事を目的とした会話が絶対に無理なんです。いわゆるオチがないおしゃべり。他人の話ばかりするガールズトークだったり、おじさん達の酒の席での愚痴会だったり。つまらなく感じてしまいます。(謝罪)作り笑いしている時間がもったいなく感じて、さっさと逃げ出すのが私のオチです。

非効率が大の苦手な私にとって、第3のジャンルを意識するのは少し抵抗がありました。20代、30代前半の時なんて、「仕事現場に感情を持ち込むな!」と思っていたくらい淡々とこなす、効率が良いWorkerでした。

しかし、患者満足度を考えると相手は人間ですし最新の医学研究を理解出来る論理脳だけでは済まされない場面が非常に多いのが医療現場だったのです。ここがビジネスやテクノロジー感覚とは大きくかけ離れている医療界の真骨頂なのかもしれません。

例えば、「肩が痛い。」と訴える患者に対し、どんな最先端の注射治療や手術治療を提供したとしても、痛みが取り切れない例が非常に多く存在していることは周知の事実です。だから、町中に存在する整骨院もマッサージ屋さんにも路頭に迷う患者さん達が多く集まるのです。もちろん彼らの技術が素晴らしいのは言うまでもありませんが、それ以上に私は、「医者が治せていない?!」という疑問が消えません。中には、その痛みは患者が作り出している「Attention Please.(私を見て!)」のサインである例も少なくないのです。

例えば、このような肩が痛い例にはまず最初に処方すべき薬は、「辛いのは分かりました。肩を壊すまで本当に頑張り屋さんだったんですね。でも、壊してしまった以上、ここでいったん休みましょうよ。」という心のこもった言葉の治療薬です。もしかしたら本来、この言葉の処方は私達医師ではなかったかもしれません。友達だったり家族だったり、本人自身だったとは思います。しかし、今となっては誰でも良いのです。現代人はそこに気付かなくなってしまった人種が非常に多いからです。せっかく病院に来てくれたのだから、私はあえてその心のこもった言葉を処方します。そして、本人に気付いてもらいます。

「私はよく頑張ってきたんだ。無理しすぎたな・・・」と。

あなたが人生において記憶すべき必須事項は本当はなんですか?

もしかしたらそれは、親から家族から、パートナーから「愛されている。」という事実なのかもしれません。社会からの「あなたは存在して良い。存在してくれてありがとう。」という紛れもない事実を本来記憶領域に使うべきだったのです。

会社の売り上げデータや締め切りに追われている業務より、自己愛、自己肯定感、社会への所属感覚、を脳の記憶領域全部を使ってでもしっかり覚えておいて下さい。これらだけは、ノートにメモを取るのではなくあなたの脳を使って記憶して欲しい内容です。

様々な背景から、これら事実の記憶が乏しくなってしまっている現代人を多く見かけます。「こういうのは感じるものだから」と感じられない人はもう、頭に叩き込んでください。30歳も40歳になって親が生存していなかったり、家族やパートナーがまだいない場合でも、自分で自分自身に「心のこもった言葉」を処方してください。あなたは自分自身の主治医になれるのです。

そして、砂漠にいて喉がカラカラなくらい水が欲しいようにAttentionや愛情が欲しいあなたですが、自分が欲しいものは他人も欲しいので、誰かからもらうというのはちょっと難しい様に思います。だからまずは、自分で自分に愛情の処方です。そしてそれを頭の中に叩き込んでくださいね。

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この記事を書いたドクター

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福島 八枝子
明るく好奇心旺盛な整形外科専門医Dr.Ekoがお届けします。スポーツ医学の本場アメリカで研究したPM&R(Physical Medicine& Rehabilitation)を扱う最新医学情報をはじめ、海外や日本での生活におけるおもしろエピソード等をご紹介

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